teamSTAR®
teamSTARのフィロソフィーを体現する新たな名刺をデザインする
ブランドコミュニケーションのきっかけとなるスリーブ状の名刺
ブランドコミュニケーションのきっかけとなる名刺の開発ストーリー
「work」のコーナーでは、課題解決の実例などについてご紹介してきましたが、今回は番外編として、先ごろ完成した私たちteamSTAR(チームスター)の名刺づくりのプロセスについて、IDREITの山倉さんをナビゲーターに迎えた対談形式でお届けします。
登場するのは、teamSTAR®︎の二人。
クリエイティブディレクター/建築家の佐竹永太郎と、デザインを手掛けてくれた株式会社レフテの田中大敦さん。
田中さんは、トヨタ自動車のレクサスデザイン部などを経て独立し、現在は自身のデザイン事務所、レフテを率いてイノベーティブなデザインに取り組むこれからを期待されるデザイナーです。
—— 先日、佐竹さんの事務所で実物を見せてもらい、まったく新しいスタイルの名刺に驚いたのですが、まずは名刺づくりのきっかけを教えてください。
佐竹(以下、S):私たちが2014年から、建築家やデザイナーの新しい働き方を目指してトライアルを重ねてきた「teamSTAR」の活動は、2021年にウェブサイトを立ち上げ、新たなステージに入りました。
しかし、1)初対面のクライアントには、teamSTARがどんなチームかがわかりにくいので、その部分を説明できるような名刺をつくりたいという理由と、2)それぞれの社名が入った名刺を持つ各分野のプロフェッショナルであるメンバーたちからも、チームとしての名刺を求められた2つがきっかけとなりました。
過去にグラフィックデザイナーに相談したこともあったのですが、納得いくイメージにはならず具現化できないでいました。
そんな折に、コミュニケーションの核となる部分を深く考えながら、自動車のインテリアやプロダクトをデザインしてきた田中さんと縁があり、彼ならいいアイデアを導いてくれるのでは、と声を掛けました。
—— なるほど。当初の依頼内容は、どのようなものだったのですか
田中(以下、T):まずは名刺のデザインを頼みたいというお話でした。しかし、活動内容や表現したいことをお聞ききするうちに、名刺のスタイリングだけではなく、名刺とはそもそも何のためのツールか、というところまでさかのぼって考えていくのがよいのではないでしょうか、という提案をしました。
S:“そもそも名刺とは”という議論に巻き込んでしまったような形ですね(笑)。自動車の設計では、エンジニアが行うエンジニアリングデザインと、デザイナーが手掛けるスタイリングデザインの二つのデザインがあります。
一般的に皆さんが考えるデザインというのは、スタイリングのことなんです。
今回の名刺では、見た目をつくり込むスタイリングだけでは不十分で、要件定義そのものからスタートする必要があると考えていました。
田中さんも私も、デザインとは何か?という話ができる関係性だったということもあって。機能を含めたものがデザインである、という共通認識がお互いにありました。
T:そうですね、僕もデザインの意義を考えることにはとても興味があったので、ヒアリングから始めて、チームとやりとりしながら思考を深めました。
—— 田中さんは当初、どんなことを手掛かりにしていったのですか?
T:名刺というよりも、まず、ブランドツールとして、どんなものがあり得るかを探りました。
名刺には、取り出して相手に渡すという行為があり、その後、保管したり探したりしますよね。つくられてから役割を終える過程の中で、どの部分をどうしてあげたらより良くなるのか、というユーザーエクスペリエンスを見つめ直したのです。
また、teamSTARをどう理解してもらえるのか、というブランディングの側面も大切にしました。
名刺を渡す相手にteamSTARの想いを伝えるアウターブランディングと、当事者であるメンバーが自分のチームを好きになってもらうインナーブランディングの双方に効果があるようにしたいとも考えました。
S:名刺の存在意義についても、いろいろと議論しましたね。
名刺というのは、名前や連絡先を伝える役割だけではなく、大切なタッチポイントであり、お客さんや関係者とのコミュニケーションのためにある。名刺にはその組織のフィロソフィーが表現されていなければいけません。
デザインにあたっては、視点が偏らないようデザイナー以外のスタッフや、コラボレーターたちの意見も聞きながら、ミーティングを重ねました。
T:ヒアリングをもとに、方向性の異なるアイデアをいくつか提案しました。
多彩なメンバーがいるという個性を表現するために、メンバー各々がひと手間(シンボルマークを塗ったり)を掛けて完成する案。
個々の力が集まる様子を表現するために、折り曲げることで個人とチームの関係を表現する案。
相手に渡すという行為にフォーカスし、相手から見やすい角度や形状を探るなど、さまざまな視座から考えていきました。
クライアントもチームの一員であるというメッセージを込めて、5ピースからなるシンボルの1ピースを鏡面として、相手の顔がそこに映り込む案もありました。
S:名刺にまつわる“行為”から発想された田中さんの自由なアイデアには、どれも惹かれました。
こうやって話し合いながらつくり上げていく過程の中に、小さな名刺が大きな世界を変えていく可能性を感じ、“デザインで世界を美しくする”という私たちの理念が現実の形となって現れる、私たちにとっても意義深い時間でした。
T:teamSTARの皆さんと活発な議論ができたのは、僕の中に、プロダクトデザイン的な発想があったからかもしれません。
プロダクトデザインでは、実際に使われるシーンを想像しながらつくっていくものなので。
他の案としては、名刺交換で、個人の名刺とチームとしての名刺を両方渡すシチュエーションを想定し、teamSTARの名刺を半透明のトレシングペーパーにして個人の名刺に重ねて使うアイデアや、複数の個人名刺を束ねるアイデアも提案しました。
また、実用性に着目して、ポストイットや名札として使える案や、グラフィックデータをそのままweb会議の背景に使えるようなものまで、あらゆる方向性を探りながら、メンバーの意見を聞いていきました。
—— 数あるアイデアの中から、名刺を包む案が選ばれたのですね。
S:はい。唯一、名刺を包む案のみが、個人の名刺をそのまま使いながら、teamSTARのメンバーの一員でもあることを伝えることが可能でした。
teamSTARの名刺と個人の名刺の二つを持つべきかという議論の結果、専門領域の異なるプロが集まり、一つのチームとしてミッションを解決する私たちの姿勢を明確に伝える名刺のあり方として、包む案がベストでした。
スリーブのように名刺を包むことは、名刺に制服を着せる“ユニフォーム”のイメージと重なる点も、私たちの名刺に相応しいと感じました。
タスキ形の案もありましたが、タスキでは弱い。服を着せて欲しいと伝えました。
T:途中、あまりに自由な提案をしてしまったかなと思いましたが、teamSTARのコンセプトを伝えるという役割をきっちり果たせているという自負もあり、よい案を選んでもらえたと思います。
S:ユニフォームのように包むスタイルに決めた後も、実はかなりの検証を重ねています。
コンセプトを表現できるプロダクトとして着地するために、ディテールにこだわりました。着物のように合わせ目を手前に見せる形状か、差し込み式とするか、重ね代の位置、幅など。
そうしたフィニッシュに至るまで、田中さんはじめ、印刷会社を巻き込み妥協せずに進めていきました。最終形では、名刺を差し込む部分の切り欠きの形が、teamSTARのシンボルの1ピースの形だって、気づきました?
—— えっ、そこまでは気づきませんでした。最後に、今回の名刺づくりを振り返り、印象深いことを教えてください。
T:メンバーの皆さんに、モノの根底から考える過程に全面的に協力してもらえたことがとても大きかったですね。
ギミックのようなアイデアが子供っぽく見えないか、teamSTARの信頼感を損なわないだろうかと気にしたこともありましたが、佐竹さんからは「真剣に遊びましょう。心配せず思い切りやってください」と後押ししてもらいました。
その結果、印刷会社の方にも出向いていただき、筒状をどう留めれば着脱しやすいかなど細部も議論させていただきました。
余談ですが、切り欠きとシンボルマークの関係を、首からメダルを下げているように配置することで、teamSTARの一員であることの誇りも感じられるプロダクトにできたと思います。
S:デザインの深さとプロダクトの大きさは比例しません。この、とても小さく、手のひらに収まるサイズの中に、これだけのストーリーが込められたのは、まさしくデザインの力ですね。
デザインに大切なことは、1000あるアイデアから999のアイデアを捨てることで、結果として説明せず伝わる美しい形となることだと常々思っていますが、そんなデザインの価値が伝わる名刺になったとおもいます。
—— これは、名刺の発明と言えるかもしれません。本日は貴重なお話をありがとうございました。
〈了〉
構成・文:IDREIT
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【teamSTAR®︎ business card】
-SERVICE
プロダクトデザイン/ブランド戦略
-DESIGN TEAM
CREATIVE DIRECTION
佐竹永太郎(STAR)
ART DIRECTION
佐竹永太郎(STAR)/田中大敦(LEFTE)
DESIGN
田中大敦(LEFTE)/奥原香菜(STAR)
COORDINATE
栗本悦子(STAR)
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